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男の子は、弱っちい。けれど気がついたら、強くなっている。

ヒロキは癒し系の男の子だ。

すごくかわいくて、そして弱っちかった。

スイミング教室では、順番を待ってコースに並んでいると、どんどん他の子どもに追い抜かれてしまう。

「水に入るのが怖いの?」と聞くと「ううん。他の子が入っちゃう」。

「イヤ」と言えないのだ。

そこで「イヤだ」と声を出す練習をした。

小さなか細い声で「イヤだ」というヒロキに向かって「大きく息を吸って吐いて、大きな声で……」

「じゃあ、ママと一緒に言ってみよう!『イヤだ、割り込むのはやめて!』」と何回も繰り返した。

お店などでも声が出せない。

例えばお祭りの夜店、ヨーヨー釣りがしたくて、人だかりの最前列にいるのに、声も出さずにジーッとお店の人が気づくまで待っている。

だから、他の人がどんどん先になる。

彼に自立してほしいわたしは、背後から「さあ自分から言え」と念力を送るのだが、ついにはイライラに耐え切れずに「この子にもお願いします」と言ってしまう。

「自分で言わないといつまでもこのままよ」と言うとたちまち涙目になった。

さて、弱っちいヒロキだけに小学校に入学しても心配事は絶えなかった。

でも、「何でも手出しをしてはいけない」と自分を抑えることが多かった。

それでよかったと思ったのは、ヒロキが小学校6年生の時だ。

卒業の記念に、「友だち4人と出雲旅行に行く」と言いだしたのだ。

計画も自分たちでやるし、お金も自分の貯金を使うという。

わたしはすごくうれしかった。

「お母さん、許してくれないでしょ?」と聞かれたが、わたしの答えは「やってごらん」。

「しっかり計画ができれば応援するよ」というもの。

その後のヒロキはすごかった。

列車を調べ、バスを調べ、訪ね歩くコースを決め、費用の計算もした。

不備なところは教えて計画を直し、最後は一緒にみどりの窓口に並んだ。

でも、今度はわたしがロを出すことは何もなかった。

夜行列車で出かけて、夜行列車で帰ってくる二泊一日の旅。

その間もとても心配だったが、それと同時に、たくましく成長したヒロキが誇らしかった。

彼はすごく変わった。

着々と内面で成長していたのだ。

男の子は自分でやってみて、失敗して、転んで、感じて、たくましくなっていく。